MuPDF 1.28.5、19 のサブコマンドで描画と変換と署名をこなし、開源の文書エンジンがまた一歩進む
要約
MuPDF 1.28.5 は AGPL の文書エンジンで、PDF と XPS と EPUB と漫画の束を読み、mupdf-gl という軽い閲覧ソフトを添え、19 のコマンド行の道具を束ねる。該当の印は 2026 年 9 月 25 日に打たれた。
- ソフト名
- MuPDF
- バージョン
- 1.28.5
- 料金
- 無料
- オープンソース
- オープンソース
- OS
- WindowsLinuxmacOSAndroid
- 公式サイト
- https://mupdf.com
- 更新日時
- 2026-10-20 01:26
PDF に触れる道具の多くはアプリケーションになりたがる。MuPDF の構えはエンジンだ。C のライブラリが一つ、コマンド行のプログラムが一組、軽い閲覧ソフトが一つ。この選択が、何を得意とするかと、最初の一時間が商用の閲覧ソフトを開くのと違って感じられる理由の両方を説明する。
アプリではなくエンジンという立ち位置
公式の説明は冒頭から定義だ。MuPDF は PDF と XPS と電子書籍の文書を見る、変換する、操作するための開源のソフトウェア基盤である。その周りに三つの層がある。各環境向けの閲覧プログラム、コマンド行の道具の一組、そして他の人が道具やアプリを組むためのライブラリだ。
この形が使い方を決める。導入しても商用の閲覧ソフトのような出来上がった画面は手に入らず、日常では端末に命令を打つか、自分のプログラムから呼び出すことになる。デスクトップの閲覧ソフト mupdf-gl はあるが、その狙いは読めること、注を付けられること、墨消しができることであって、組版を美しく見せることではない。

1.28.5 が持ってきたもの
いまの版は 1.28.5 で、該当の印は 2026 年 9 月 25 日に打たれ、1.28 の線に属する。
文書形式として Markdown の対応が加わり、これが 1.28 で最も目につく変化だ。コマンド行には mutool audit が増え、PDF の構造を解析して報告を作るので、ファイルがなぜ開かないかを追うときに役立つ。文字の取り出しは細部をまとめて直した。柔らかい連字符と硬い連字符の区別、合字の分解、段落の字下げの認識、偽の太字の判定などが含まれる。EPUB と HTML の描画には vertical-align、下線、取り消し線、強調の印が加わり、:before と :after という二つの疑似要素も入った。さらに fz_check_document が加わった。文書を先に走査して起こりうる構造の誤りを直すので、編集の途中でファイルが黙って直され、変更まで失われる事態を避けられる。
もう一つ気をつけたいのは選択肢の仕組みが変わったことだ。PDF を書き出す選択肢のうち decrypt は廃止予定とされ、encrypt=none に置き換わった。
mutool、十九のサブコマンド
コマンド行の道具は一つの入口にまとまり、公式はそれを十徳ナイフと呼ぶ。サブコマンドは十九ある。draw は文書を画像に描き、convert は形式を変え、clean は整理して書き直し、extract は画像と書体を抜き、merge はまとめ、pages はページを増減し、poster は面を切って並べ、recolor は色を置き換え、sign は電子署名を付け、barcode は縞模様の符号を作り、trim は余白を切り、info はファイルの情報を報せ、show は下層の対象を印字し、run は JavaScript を走らせ、grep は正規表現で文字を探し、trace は描画の命令を追い、create は新しい PDF を作り、bake は注釈と様式を焼き込み、audit は構造の解析を行う。
日常でよく使うのは draw と convert の二つだ。前者は描画を受け持ち、点の集まりの画像を書き出す。後者は形式の変換を受け持ち、EPUB を PDF にしたり、PDF を HTML と画像の組に分けたりする。
サブコマンド | すること |
|---|---|
draw | 文書を画像に描き出す |
convert | 形式を変える。EPUB を PDF に、PDF を HTML に |
clean | 整理して書き直す |
extract | 画像と書体を抜き出す |
merge | 複数の文書を一つにまとめる |
pages | ページを増減し、順番を入れ替える |
poster | 一面を印刷できる区画に切る |
recolor | 色を別の組に置き換える |
sign | 電子署名を付け、また確かめる |
barcode | 縞模様の符号を作る |
trim | 余白を切り落とす |
info | ファイルの中身を報せる |
show | 下層の対象を印字する |
run | JavaScript を走らせる |
grep | 正規表現で文字を探す |
trace | 描画の命令を追う |
create | 新しい PDF を作る |
bake | 注釈と様式を面に焼き込む |
audit | 構造を解析して報告する |
閲覧ソフト mupdf-gl
デスクトップ側の主な閲覧ソフトは mupdf-gl で、PDF、XPS、CBZ、EPUB、FB2 を開け、よくある点の集まりの画像と SVG も見られる。機能は乏しくない。側の欄の目次、Unicode の全文検索、注釈の編集、墨消しがどれも入っている。
コマンド行の指定には実用的なものがいくつかある。色を反転する方式、ICC の色設定、画面の拡大率、EPUB の組版に使う面の幅と高さと文字の大きさ、そして外部の様式表を出版元の様式に重ねる切り替えだ。長い時間読む人なら、反転の項目はほぼ必ず入れる。
環境ごとの違いははっきり書いておきたい。Windows には古い win32 の閲覧ソフトがあり、X11 の環境には mupdf-x11 があり、どちらも mupdf-gl より機能が一段少ない。macOS については、Linux と同じ手順で組み立てられると書かれているが標準の閲覧ソフトは提供されない。したがって Mac ではライブラリとコマンド行の道具として使うことが多くなる。
読める形式
入力について公式の一覧は九の組を挙げる。PDF、XPS と OpenXPS、EPUB(DRM の付かない 2.0、3.0 は限られた対応のみ)、Mobipocket の MOBI、FictionBook 2 の FB2、漫画の束の CBZ と CBT、よくある点の集まりの画像(TIFF、JPEG、PNG など)、SVG の限られた一部、そして 1.28 で加わった Markdown だ。
出力で出せるのは PDF、素の文字、HTML、PostScript、PCL5 と PCLM、PWG と CUPS、PNG と SVG になる。入る側も出る側もそろっている。

墨消しと署名
この道具での墨消しは、黒い帯をかぶせることではない。選んだ範囲の中身をファイルから本当に消し、画素と文字をまとめて扱うので、消された語はあとから取り出せない。外部への発送や、識別情報を除いた保管といった状況では、この違いが譲れない条件になる。
電子署名は mutool sign を通る。付けられて、確かめられる。署名のあとに文書が触られていないかを見るのに使う。
開発する側
中核は C のライブラリで、ほかの結び付きの層はその上に生える。Python 側は PyMuPDF で、データの取り出しと分析が主眼だ。JavaScript と TypeScript 側は MuPDF.js で、Node の中で走る。C# 側にも対応する包みがある。web ページに閲覧ソフトを埋め込む場合は、商用の許諾による別の製品の線がある。
2026 年 10 月 19 日に PyMuPDF は 2.0 を出した。中身は主に不具合の修正で、抜き出しの連字符の扱い、ページを回した後の見出しの注の位置、記憶域と描画に関するいくつかの退行が含まれる。同じ日に、各環境向けの完全な導入の包みが package の索引で引けるようになった。
許諾、二つの道
開源の側は GNU AGPL だ。公式の説明はそこを明言している。この許諾は無償で企画に使うことを認めるが、条件が少なくない。その一つが、それに基づいて組み上げた仕組みの完全な源を公開することだ。閉じた製品を作り、源を見せたくないなら別の道を行く。商用の許諾で、買ってしまえば AGPL の制約はすべて外れる。
もう一句、書き写す値がある。ソフトウェアは現状のまま提供され、いかなる保証も伴わず、支援も含まない。実際の運用に置くなら、この点を前もって費用に数えておきたい。
どこで楽で、どこで窮屈か
PDF をまとめて処理するとき、文字を抜き、ページを切り分けてまとめ、画像に変え、構造の検査を走らせる。コマンド行の一式は画面の道具よりずっと能率がよく、一つの命令が一つのフォルダに向く。自分のプログラムの中で描画や解析をするなら、そのまま使える下層のエンジンであり、結び付きの層も十分に広い。
逆に、二度押しですぐ開き、見た目のよい日常の閲覧ソフトが欲しいだけなら、これは向かない。デスクトップの閲覧ソフトは機能の充実に寄り、操作と組版は精緻な道を取らない。Mac では既定の閲覧ソフトすら用意されていない。
MuPDF の値打ちはエンジンの層にある。九つの入力形式、十九のサブコマンド、墨消しと署名のできる閲覧ソフト、そして AGPL と商用の二重の許諾。普通の利用者に向けた読書のソフトではなく、文書をまとめて処理したい人、あるいは自分で道具を組みたい人のための、下層の部品一式だ。